LUX SQ38FD その1
はじめに
このアンプの前身は「SQ38」といって、NEC製の国産出力管6R-A8をプッシュプル動作させて15Wを叩き出すようにした、当時としては、国産最高峰ともいうべきプリ・メインアンプでした。しかし、半導体アンプが
どんどん大出力化するにつれて、真空管アンプにも大出力時代が到来します。
時代の要請に応えるべく、NECが開発(といってもTV球の流用)したのが50CA10/6CA10で、プッシュプル動作で30W出せることになっています。6R-A8を50C-A10に換装したのが「SQ38F」で、ここに至って出
力30W+30Wを実現し、パネル・デザインも大幅に変更されて、続く「SQ38FD」に受け継がれてゆきます。ちなみに「F」は「Final」、「FD」は「Final Deluxe」の意味です。
50CA10の起用は、高級真空管プリ・メインアンプを10万円以下で実現するための必然でした。何故なら、2A3では球のコストのみならず、ドライブ回路に金がかかり、それでやっと15Wしか出ません。EL34/6CA7の3
結という選択肢もきっとあったであろうと想像できますが、これとて30Wはちょっと無理です。どうしても、プレート損失30W級の高バーピアンス球の開発が必要だったわけです。
高級アンプとはいいながらも、最少の球数で無理なくデザインするために、そこここに回路上の工夫と微妙できわどい妥協を発見することができます。妥協をしなかったのがMarantz 7だとすれば、SQ38FDはうまく妥
協をしたアンプといっていいでしょう。そのへんのところの詳細は、実際の解析のところでふれてゆきたいと思います。
当時のLUXのカタログは、すべて、裏面に全回路図が紹介されていた→
全体の構成
全体の構成は以下のとおりです。
操作スイッチ類が多いのでブロック・ダイヤグラムは複雑に見えますが、セレクタスイッチやフィルター回路等利得に影響のないものを省略して、全体を整理してしまうと以下のようなシンプルでオーソドックスな構造が見えてきます。
まず、プリ部です。2.2mV感度のphono(MM)入力を、39dB(90倍)の利得を持ったNF型RIAAイコライザでラインレベル(200mV)まで増幅します。入力セレクタスイッチとバランス/ボリューム・コントロールを経てフラットアンプに入ります。このフラットアンプは12AX7単段になっており、p-g
帰還を起用したところがミソです。前モデルSQ38やSQ38Fでは、ここは無帰還の12AU7単段増幅だったからです。Marantz7では、フラットアンプを12AX7の2段増幅で構成していますから、ここを単段で始末しようとしたところに、SQ38FDプロジェクトの経済感覚を垣間見ることができます。
トーンコントロールは、LUXが独自に開発したNF(p-g帰還)型で、同じNF(p-g帰還)型であるBAX型トーンコントロールのようにセンタータップ付きボリュームを必要としないのに、素直な特性が得られるすぐれた回路です。このトーンコントロールにも、非常に面白い割切り思想が流れていま
すから、そのへんのところは後で詳しく述べたいと思います。
メイン部は、ミュラード型位相反転回路を使ったオーソドックスな構成です。SQ38およびSQ38Fが初段に12AU7(1/2ユニット)を使っていたのに対し、SQ38FDでは6267(3結)に変更されています。位相反転段が、ミュラード型で良く使われる低μ低rpの12AU7や6FQ7ではなく、μが高め
の6DT8/6AQ8に変更されている点も大きな特徴です。何故そうしたのかについては後で説明するつもりです。終段は50CA10ppで、かなり酷使する動作条件となっているために、後々SQ38FDの名誉を損なう結果となってしまいました。
全回路図
プリ・・RIAAイコライザアンプ
真空管によるRIAAイコライザアンプをもっともシンプルで安価に仕上げたいと思うならば、12AX7/ECC83の2段NF型がもっともポピュラーです。本機でも、常識的
な12AX7/ECC83の2段NF型を採用しています。では、早速回路(右図)を見てみましょう。
入力回路
実際の回路では、2つのphono入力をスイッチで選択できるようになっているので、スイッチが切り替わる瞬間に初段12AX7のグリッドがオープンになったりしないように、150kΩ
で確実にアースに落とすことをやっています。
初段入力部分のGとKとの間に100pFのコンデンサが挿入されています。放送局の近隣では、放送電波が入力回路に混入することによるノイズ(主に「ザー」という映像雑音・・バ
ズという)が出ることがあり、メーカー製アンプでは、こういったトラブルを回避するために一見音に悪さをしそうなこともやらなければなりません。
負帰還回路
全体としては常識的な回路のように見えますが、NFBのかけかたにちょっとした工夫があって、ここで設計者のポリシーを感じることができます。どこかというと、2段目プレー
トから初段カソードへの帰還する際の、プレート側の直流遮断用コンデンサの入れ方です。
ここにコンデンサを入れる目的のその1は、出力側に直流電圧が現われないようにすることで、その2は、
カソード側にも電流が流れ込まないようにするためです。
ところで、多くの回路では(A)のような配線になっています。Cxで出力側を切り離し、CyがNFB側を受け持ちます。この方式では、Cyが帰還素子として超低域においてバス・ブースト回路になってしまっています。周波
数特性が狂ってしまうだけでなく、超低域における安定度をそこねる要因になります。
(B)も同様の問題をかかえています。負帰還ループ内のコンデンサの数が最も多い(3個)ため、超低域の安定度はこの方式が最悪です。
(C)のようにすれば、2つのコンデンサ(CzとCx)の中間点で周波数特性がフラットになろうとするため、Cxによる超低域減衰があることに目をつぶれば、もっとも安定した動作が期待できます。
(D)は、(C)を一歩進めたかたちで、出力側から初段カソードに直流領域まで帰還がかかるようにしたもので、直流電流による回路全体の動作バランスさえ辻褄を合わせることができれば、もっとも優れた結果が期待でき
ます。ただし、RIAA帰還素子を構成する2つのコンデンサに直流電圧が印加されてしまうため、コンデンサの耐圧や音質への影響の懸念が生じます。
RIAAイコライザ素子
1つ前のモデルのSQ38Fでは、phono入力(RIAAイコライザ)ほかにもうひとつ、Tapeヘッドからの入力(NABイコライザ)も備えていましたが、ヘッドアンプを内蔵したテープデッキが普及するに至り、SQ38FDではphono入力のみに変更されています。
さて、RIAAイコライザ素子の時定数について検証してみましょう。2つの抵抗器と2つのコンデンサからなるおなじみの負帰還素子です。
1kHzをほぼ中心として、低域を持ち上げ、高域を減衰させて、レコードのカッティング時に行われている周波数特性操作を補正(イコライジング)するための3つあるRIAA時定数は以下のとおりです。(左:規定値、右:SQ38FDの値)
●75μS(2120Hz)・・・81μS(1963Hz)
●318μS(500Hz)・・・307μS(518Hz)
●3180μS(50Hz)・・・5440μS(29Hz)
アンプの裸の利得が無限大に大きければ、設計時の定数は75μS、318μS、3180μSにぴったり合わせればいいのですが、実際のアンプの裸の利得は有限なので、3180μSのままで組んでしまうと低域の補正が不足してしまいます。これをカバーするには意図的に3180μSを4000μ〜6000μSくら
いの範囲で変更する、という手法をとります。本機の5440μSというのはそういう意図を持った値です。
同じ目的で318μSも、ほんの少しちいさな値にずらすことがあります。307μSというのが、そういうことを考えての結果なのか、たまたまCとRの組み合わせ上そうなったのかは私に
はわかりません。当時の一般的な意識として、RIAA補正の精度を追求するという考えはあまりありませんでしたが、SQ38FDのカタログ上は、RIAA偏差0.5dBとあります。カタログス
ペックと実態の間にはどれくらいの信頼性があるのでしょうか・・このことはこのページの最後のお楽しみということいしましょう。
75μSが、実際は81μSにずれているのはおそらくCやRの値が飛び飛びであることに起因すると思います。厳密に合わせようとするならば、複数の抵抗やコンデンサを合成して希望の
値にしてやらなければなりません。
左図は、RIAA補正特性を直線で描いたものです。赤線がRIAA標準にもとづくもので、50Hz(3180μS)、500Hz(318μS)、2120Hz(75μS)の3点で折れ曲がっています。青線はSQ38FDのも
ので、わかりやすくするために1963Hz(81μS)以上の線を赤線と重なるように位置合わせをしています。こうしてみると、意図的に低域を持ち上げている様子がよくわかります。しか
し、後述する理由によって、SQ38FDの実際の特性は赤線にかなり近づいてくるようになります。
3極管2段構成のRIAAイコライザ・アンプの設計で最大の課題は、このイコライザ素子のインピーダンスをどれくらいの値にするかです。なぜならば、イコライザ・アンプの総合利得
は「イコライザ素子のインピーダンス」と「初段のカソード抵抗値」の比で決定されるからです。
ちなみに、NF型イコライザ・アンプの1kHzの利得がどれくらいであるかを簡単に概算する方法をお教えします。値が小さい方の抵抗器に着目します。本機では「300kΩ」です。さ
て、この値を「1.25倍」すると「375kΩ」になります。この「375kΩ」が負帰還抵抗としてはいっているとみなせばいいのです。カソード抵抗値は「3.9kΩ」ですから、(375+3.9)÷3.9=
約97.2(倍)、が得られます。
初段のカソード抵抗の値はあまり自由に選択できません。バイアスは、浅すぎても深すぎてもいろいろと問題が生じるからです。また、イコライザ素子のインピーダンスにも制約があ
ります。イコライザ素子は2段目のプレート負荷と並列にはいるため、あまり小さな値だと2段目の負荷が重くなりすぎて、歪みが増加したり利得が低下したりするからです。2段構成
のNF型イコライザ・アンプでは、このバランスを思い通りにとるのが難しく、常に「利得が足りない」か「負荷が重くなりすぎる」かいずれかの問題がつきまといます。
初段の動作ポイント
初段の動作の様子を確認するために、12AX7/ECC83のIp-Ep特性曲線上にロードラインを引いてみることにします。ロードラインを引くために必要な情報は、直流負荷抵抗、交流負荷抵抗、バイアスに関する情報、電源電圧以上4つですが、残念ながらLUX発表の回路図上には電源電圧を含む電
圧データがありません。そこで、わかっている範囲でいろいろ考えてみることにします。
直流負荷抵抗は回路図上から270kΩであることがわかり、交流負荷インピーダンスは、270kΩと1MΩの並列値ですから、(1000×270)÷(1000+270)=213kΩと求まります。バイアス情報ですが、カソードバイアスの場合はカソード抵抗値(この場合は3.9kΩ)さえわかればEp-IP特性曲線上から追いか
けることが可能です。
どうするかというと、EP-IP特性曲線上の各バイアス電圧ごとのIpを算出してグラフ上にプロットしてゆけばいいのです。
バイアス電圧 Ik(=Ip) 式
‑0.5V 0.128mA =0.5V÷3.9kΩ
‑1.0V 0.256mA =1.0V÷3.9kΩ
‑1.5V 0.385mA =1.5V÷3.9kΩ
‑2.0V 0.513mA =2.0V÷3.9kΩ
カソードに一定の抵抗を挿入してカソード・バイアスとした場合、その球がどんな動作条件で安定するかを求めたのが、右図中の赤色と灰色の右上がりの直線です。赤色は、真空管マニュアル掲載の
特性をもとに描いたもの、灰色はTelefunken ECC83の実測値をもとに描いたものです。この線とこれから引くロードラインの交点が、カソード・バイアス時の動作点になります。
電源電圧がわからないのでかりに200Vと250Vとしてロードライン(青色)を引いてみます。負荷抵抗が270kΩですから、それぞれ200V/0mAと250V/0mAを起点として、0V/0.74mAと0V/0.93mAまで引き
ます。(計算式は、200V÷270kΩ = 0.74mA、250V÷270kΩ = 0.93mAです。)
バイアスは、-0.7mAよりも深いことが望ましく、しかもあまり深すぎない方が内部抵抗が低く、μが高く、動作も安定します。上記の結果からわかるとおり、電源電圧が200Vであっても250Vであっ
ても適切な動作条件が選択されていることがわかります。
電源電圧=200Vのとき:
プレート電圧=110V〜120V
プレート電流=0.33mA〜0.3mA
そのときのバイアス電圧=-1.29V〜-1.17V
電源電圧=250Vのとき:
プレート電圧=140V〜150V
プレート電流=0.4mA〜0.37mA
そのときのバイアス電圧=-1.56V〜-1.44V
なお、バイアス電圧は、プレート電流×カソード抵抗(1.5kΩ)で求めたので、グラフ上での読み取り数値とは異なっています。青色のロードラインは直流動作に関するロードラインです。これに重ね
て交流負荷213kΩにあたるロードラインを淡い青色で引いてみました。これが初段の実際の増幅動作を表わしたロードラインです。
2段目の動作ポイント
2段目の動作では、直流負荷抵抗は回路図上から100kΩであることがわかります。初段のときと同様に、各バイアス電圧ごとのIpを算出してグラフ上にプロットして、カソード・バイアスの時の安定動作点を求めるグラフを作成して、100kΩのロードラインとの交点を求めます。
バイアス電圧 Ik(=Ip) 式
‑0.5V 0.33mA =0.5V÷1.5kΩ
‑1.0V 0.67mA =1.0V÷1.5kΩ
‑1.5V 1.0mA =1.5V÷1.5kΩ
‑2.0V 1.33mA =2.0V÷1.5kΩ
ここでも電源電圧がわからないのでかりに200Vと250Vとしてロードライン(青色)を引いてみます。負荷抵抗が100kΩですから、それぞれ200V/0mAと250V/0mAを起点として、0V/2.0mAと0V/2.5mAま
で引きます。(計算式は、200V÷100kΩ = 2.0mA、250V÷100kΩ = 2.5mAです。)
電源電圧=200Vのとき:
プレート電圧=125V〜130V
プレート電流=0.75mA〜0.7mA
そのときのバイアス電圧=-1.125V〜-1.05V
電源電圧=250Vのとき:
プレート電圧=160V〜165V
プレート電流=0.9mA〜0.85mA
そのときのバイアス電圧=-1.35V〜-1.275V
(注:ここでも、バイアス電圧は、プレート電流×カソード抵抗(1.5kΩ)で求めたので、グラフ上での読み取り数値とは異なっています。)
しかし、交流負荷インピーダンスはちょっと厄介です。それは、2段目の12AX7には以下にまとめたように実におびただしい数の負荷が並列にぶら下がるからです。RIAA素子は周波数によってイン
ピーダンスが変化しますし、外部接続されたテープデッキの録音入力までもが負荷に加わります。
確実にわかっているものは、(1)プレート負荷抵抗の100kΩ、(2)出力側の1MΩです。その先には47kΩの抵抗を介して250kΩのバランス・コントロールがあります。このバランス・コントロールに
はAC型のカーブを持ったセンタータップ付きのボリュームが使われています。この場合、入力インピーダンスは210kΩ〜220kΩくらいになりますが、その先に250kΩのボリューム・コントロールが
あるため、その合成抵抗は、(220×250)÷(220+250)=117kΩになります。さらにその先にフラット・アンプの入力がきますが、とりあえず考えないことにします※。(3)結局117kΩと47kΩとを足し
て164kΩということにします。(4)もうひとつ未知数であるテープデッキの録音入力インピーダンスですが、手元のNakamichi製のテープデッキがいずれも100kΩなのでこの値を借用することにしま
す。(5)残ったのはNF素子です。これも負荷の一員を構成しますが、周波数によってインピーダンスが変化するところが曲者です。NF素子の1kHzにおけるインピーダンスは、300kΩ×1.25=375kΩとい
う式で簡易計算できます(この1.25倍というのが簡易計算のポイントです)。
※通常、プリアンプのボリュームは10時〜14時くらいの角度で使われることが多いこと。音量調節で使われるA型ボリュームでは、15時くらいまでまわしきらないと抵抗値上50%にならないため、14
時以下では後段の受け側のインピーダンスの影響がほとんど出ないことから判断しました。
(1)〜(5)のすべての並列インピーダンスを求めるとこれがたったの34kΩです。そこで、上で求めた動作ポイントを通るような負荷34kΩのロードラインを淡い青色で引いてみました。内部抵抗の高い12AX7としては非常に苦しい動作動作ポイントとなりますが、これ以上深くても浅くてもよく
ないというなかなかいいところをおさえています。もし、テープデッキの録音入力が接続されていないならば、2段目の負荷インピーダンスは34kΩではなく50kΩになってくれて動作もいくぶんか楽になります。
利得の計算
まず、初段の裸利得です。概算にとどめますが、必要なデータは以下のとおりです。
●真空管のμ・・・約100(12AX7はプレート電流が0.5mA以下になっても100のままあまり低下しません)
●真空管のrp・・・約90kΩ(真空管マニュアル記載の62.5kΩという値は事実に反します)
●交流負荷抵抗・・・213kΩ(270kΩと1MΩの並列)
●カソード抵抗(バイパス・コンデンサがない場合)・・・3.9kΩ
初段のカソード抵抗にはバイパス・コンデンサがないために12AX7の内部抵抗(rp)は通常時よりも相当に高くなります。そのことも計算にいれます。
初段裸利得 = 100×{ 213kΩ÷( 213kΩ + 90kΩ + 3.9kΩ×100 ) } = 30.7倍
つぎに2段目の裸利得です。必要なデータは以下のとおりです。
●真空管のμ・・・約100
●真空管のrp・・・約70kΩ(初段よりはプレート電流が多く、rpは低くなりますがあくまでエイヤです)
●交流負荷抵抗・・・34kΩ/50kΩ(テープデッキがある場合/テープデッキがない場合)
●カソード抵抗(バイパス・コンデンサがない場合)・・・0kΩ
2段目裸利得 = 100×{ 34kΩ÷( 34kΩ + 70kΩ ) } = 32.7倍 ・・・テープデッキがある場合
2段目裸利得 = 100×{ 50kΩ÷( 50kΩ + 70kΩ ) } = 41.7倍 ・・・テープデッキがない場合
イコライザ・アンプ全体の裸利得は、
裸利得 = 30.7×32.7 = 1004倍 ・・・テープデッキがある場合
裸利得 = 30.7×41.7 = 1280倍 ・・・テープデッキがない場合
さて、いよいよNFBがかかった状態の利得です。1kHz時のRIAA素子のおおよそのインピーダンスは375kΩで浮け側のカソード抵抗は3.9kΩです。従って、帰還後の利得は、
帰還定数 = ( 375 + 3.9 )÷3.9 = 97.2
帰還後の利得 = ( 97.2×1004 )÷( 97.2 + 1004 ) = 88.6 ・・・テープデッキがある場合
帰還後の利得 = ( 97.2×1280 )÷( 97.2 + 1280 ) = 90.3 ・・・テープデッキがない場合
という結果になりました。LUX発表の定格が、phono入力が2.2mVでaux入力が200Vですから、定格から求めた利得、200mV÷2.2mV=90.9倍、とほとんど一致します。電源電圧もわからず、こんなに概算を多用してもこのようにかなり精度の高い解析ができるところが電子回路の面白いところで
す。
RIAAイコライザの超低域問題
さて「RIAAイコライザ素子」の章でSQ38FDでは「意図的に低域を持ち上げている」と書きました。正確には「RIAA素子の定数上で意図的に低域を持ち上げている」というべきでしょう。
RIAAでは、50Hz以下の帯域では1kHzと比較して20dBも高いイコライジング特性を要求しています。ところでこの2段アンプの裸利得はせいぜい1004倍〜1280倍であり、1kHz時の帰還後の利得が88.6倍〜90.3倍なわけですから、このときの帰還マージンは、11.3〜14.2(計算式は1004÷88.6
と1280÷90.3)しかありません。
こんな状態で3180μの定数でRIAA素子を組んでしまうと、50Hz以下の最終利得は規定値をはるかに下回ってしまって正確なRIAA特性が得られなくなってしまいます。そこで、意図的にRIAA定数をいじる(つまり4000μS〜6000μSに変更する)ことで最終特性をしかるべきRIAA特性に近づけよ
うとするわけです。
この問題についてひとつだけ都合の良いことがあります。それは、RIAA素子は低域になればなるほどインピーダンスが高くなるために、2段目の負荷がわずかでも軽くなるということです。実際SQ38FDでは、50Hz以下の裸利得は1004倍〜1280倍ではなく、1080倍〜1350倍くらいに増加しま
す。
しかし、これでも本来のRIAA特性に対しては、100Hz以下で若干の不足が出ると思います。どう考えても裸利得が足りないのです。ですから、SQ38FDでまともな特性でレコードを楽しみたい場合は、録音出力にテープデッキをつながない、というのが鉄則になります。なぜなら、最近のテー
プデッキやMDレコーダーのほとんどは、入力インピーダンスが50kΩくらいであるのが普通で、こんなのをつないだ日にはSQ38FDイコライザ・アンプの低域特性はバッサリ切り取られるだけでなく、1kHz以上の帯域での歪みも増加するからです。
加えて、イコライザ・アンプの出力側に存在する2つの0.1μFのコンデンサにも問題があります。後続する回路のインピーダンスが34kΩだと仮定すると、0.1μ+34kΩの組み合わせによって生じる低域の減衰は、50Hzで-3dB、30Hzで-6dBにもなります。今日の常識で考えたならば、ここで使わ
れるコンデンサの容量は0.47μF以上になるでしょう。
電源電圧に関する考察
さて、このイコライザアンプの電源電圧は一体何Vくらいなのでしょうか。初段、2段目ごとにロードラインを引いてみましたが、電源電圧がよくわからず、仮に200Vと250Vの2つのケースを勝手に想定していました。
初段の推定プレート電流は、電源電圧200Vのとき0.3mA〜0.33mA、250Vのとき0.37mA〜0.4mAでした。そして、2段目推定プレート電流は、電源電圧200Vのとき0.7mA〜0.75mA、250Vのとき0.85mA〜0.9mAです。整理してイコライザアンプの各チャネルごとの電流合計値は、
200Vだとすると・・・0.3mA〜0.33mA + 0.7mA〜0.75mA = 1.0mA〜1.08mA
250Vだとすると・・・0.37mA〜0.4mA + 0.85mA〜0.9mA = 1.22mA〜1.3mA
になります。各チャネルごとにB3と名づけられた電源から、100kΩの抵抗でドロップされているので、これを逆算するとB3の電圧を推定することができます。
200Vだとすると・・・B3 = 200V + ( 1.0mA〜1.08mA×100kΩ ) = 300V〜308V
250Vだとすると・・・B3 = 250V + ( 1.22mA〜1.3mA×100kΩ ) = 372V〜380V
という結果になりました。ここで求めた結果は後の解析で使うことにします。
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LUX SQ38FD その2
フラットアンプ
SQ38FDのフラットアンプは特異な構成であることで知られています。前モデルのSQ38、SQ38Fともに12AU7単段の無帰還構成でしたが、SQ38FDでは、p-g帰還
と呼ばれるちょっと変わった負帰還方式を採用している点にあります。では、早速回路(下図)を見てみましょう。
回路の概要
セレクタスイッチを出た信号(in)は、47kΩの抵抗を介してステレオ-モノ切換のモードスイッチにはいります(上の図では省略)。この47kΩの抵抗は、スイッチをモ
ノにした時、左右チャネルそれぞれのソース同士が干渉し合わないようにするためです。250kΩ(AC型)ボリュームを使ったバランス・コントロール回路を経
て、250kΩ(AA型)のボリューム・コントロール回路にはいります。この後ろにローカット・フィルタが続きます(省略)。0.1μFのコンデンサがありますが、これ
はソース側から何かのトラブルで直流電圧が印加された場合でも、フラットアンプの動作に影響を及ぼさないためのものと推察されます。次の1MΩの抵抗は、フ
ラットアンプのグリッド電位をアースと同じに保つためです。
12AX7のグリッドの直前にある47kΩが、p-g帰還のための帰還抵抗で、プレート側から戻るようにつながっている1MΩとこの47kΩとで負帰回路が成り立ってい
ます。
p-g帰還回路
p-g帰還の特徴は、まず、入力のグリッドのところに抵抗(47kΩ)が割り込んでくること、負帰還はプレートからグリッドにかかるということ、入力された信号
は47kΩと1MΩとで減衰されるという副作用があること、入力インピーダンスが低いことです。
ところで、p-g帰還の計算には重要な約束事があります。それは、ソース側のインピーダンスがゼロであるということです。ソース側にもインピーダンスがある場
合は、グリッに接続されている47kΩに加算して考えなければいけません。そこで問題になるのが、ボリューム・コントロールの位置によるソース・インピーダ
ンスの変動とその前に存在する47kΩの抵抗の存在です。
その様子をわかりやすく描き直したのが上の2つの図です。ボリュームがMINの位置にある時は、47kΩの一端は接地されます(上図左)。ボリュームがMAXのとき
は、その前の47kΩの抵抗、ボリューム自身の250kΩ、バランス・コントロールのセンタータップから下の抵抗値(約220kΩ)の3つによって接地されます(上図右)。
では、ソース・インピーダンスが最大になるのはどんな
時かというと、それは右図「ソースインピーダンスが最
大になる時」のような条件になった時になります。これ
は、ボリュームの位置がだいたい3時〜4時くらいの角度
にあたります。
ソースインピーダンスについてまとめてみます。
●ボリュームMINの時・・0Ω
●ボリューム3〜4時の時・・72.25kΩ
●ボリュームMAXの時・・33.5kΩ
従って、負帰還を決定する2つの抵抗値は、
●ボリュームMINの時・・47kΩ:1MΩ
●ボリューム3〜4時の時・・119.3kΩ:1MΩ
●ボリュームMAXの時・・80.5kΩ:1MΩ
という結果になります。
ボリューム・コントロールの位置によって、フラットアンプのソースインピーダンスが変動するということは、フラットアンプの直前に置かれたローカット・
フィルタの周波数も変動してしまうことになります。ボリュームMINの時と3〜4時くらいの時とで、周波数は2倍ほども変動します。このような問題は、SQ38F以
前ではなかったことです。
注:ここでは、入力からさらに上流のソース(たとえばphonoイコライザ・アンプやチューナ等)の出力インピーダンスについてはゼロであると仮定して計算してい
ますのでご了承ください。
フラットアンプの動作ポイント
例のごとく、フラットアンプの動作ポイントの検証をしてみます。カソード抵抗は、イコライザアンプ2段目と同じ1.5kΩですが、プレート抵抗が150kΩでちょっ
と大きめの値になっています。
電源電圧ですが、かりに250Vと300Vの2つのケースを仮定してみま
す。そして、グラフからは、
電源電圧=250Vのとき:
プレート電圧=130V〜145V
プレート電流=0.8mA〜0.7mA
そのときのバイアス電圧=-1.2V〜-1.05V
電源電圧=300Vのとき:
プレート電圧=162V〜177V
プレート電流=0.92mA〜0.82mA
そのときのバイアス電圧=-1.38V〜-1.23V
であることが推測されます。バイアスはちょっと浅めかな、という
気がしますが、このあたりの動作ポイントであれば、少々ずれても
増幅回路としての特性にはあまり影響はないと思います。なお、バ
イアス電圧は、プレート電流×カソード抵抗(1.5kΩ)で求めたので、
グラフ上での読み取り数値とは異なっています。
利得の計算
裸利得の計算に必要なデータは以下のとおりです。
●真空管のμ・・・約100
●真空管のrp・・・約70kΩ
●交流負荷抵抗・・・???kΩ(直流負荷抵抗は150kΩ)
交流負荷抵抗は、次のトーンコントロール段の入力インピーダンスがわからないことには計算できません。ここは少々強引ですが、トーンコントロール段の入力
インピーダンスを100kΩと仮定しての概算を試みます。150kΩと100kΩの並列合成値は60kΩですから、
裸利得 = 100×{ 60kΩ÷( 60kΩ + 70kΩ ) } = 46.1倍
さて、負帰還計算に必要な帰還定数ですが、
●ボリュームMINの時・・47kΩ:1MΩから、( 47kΩ + 1MΩ )÷47kΩ = 22.3
●ボリューム3〜4時の時・・119.3kΩ:1MΩから、( 119.3kΩ + 1MΩ )÷119.3kΩ = 9.4
●ボリュームMAXの時・・80.5kΩ:1MΩから、( 80.5kΩ + 1MΩ )÷80.5kΩ = 13.4
これを使って、負帰還後の利得を求めると、
●ボリュームMINの時・・( 22.3×46.1 )÷( 22.3 + 46.1 ) = 15.0倍・・帰還量=3.1倍
●ボリューム3〜4時の時・・( 9.4×46.1 )÷( 9.4 + 46.1 ) =7.8倍・・帰還量=5.9倍
●ボリュームMAXの時・・( 13.4×46.1 )÷( 13.4 + 46.1 ) = 10.4倍・・帰還量=4.4倍
ごらんのとおり、本機はボリュームコントロールの位置によってフラットアンプの利得(すなわち帰還量)が最大2倍程度変化する不思議な構造になっているので
す。当然のことですが、ボリュームコントロールの位置によって歪み率や周波数特性も変化してしまいますが、これを聞き分けることができる人がいるかどうか
・・・。
p-g帰還回路の入力インピーダンスは以下の計算式で求まります。p-g帰還の入力インピーダンス算出については、「
私のアンプ設計マニュアル」の「負帰還その
3 (その種類と実装のポイント)」に詳しい説明があります。
入力インピーダンス = グリッド抵抗 + { 負帰還抵抗÷( 裸利得 + 1 ) }
必要な値をいれて計算してみると、
47kΩ + { 1MΩ÷( 46.1 + 1 ) } = 68.2kΩ
これらをもとに「ボリュームがMAXの時のフラットアンプ段全体の利得」を計算してみます。まず、回路図「Volume MAX時」中の、入力から(X)点までです
が、47kΩと250kΩ//200kΩ//68.2kΩとの減衰回路になりますので、
( 250kΩ//200kΩ//68.2kΩ )÷( 47kΩ + 250kΩ//200kΩ//68.2kΩ ) = 0.47倍
です。(X)点から(Y)点までは、47kΩと1MΩとの減衰回路になりますので、
1MΩ÷( 47kΩ + 1MΩ ) = 0.96倍
そして、ボリュームMAXの時の負帰還後の利得は10.2倍でしたから、これを総合すると、
0.47×0.96×10.4 = 4.7倍
となって、これがライン入力からフラットアンプの出口までの、ボリュームコントロールMAX時の利得ということになります。
ついでに、フラットアンプの出力インピーダンスについても検証しておきましょう。SQ38やSQ38Fでは、フラットアンプには12AU7が無帰還で使われていまし
た。この場合の出力インピーダンスは、
(1)12AU7のrp・・おおよそ10kΩ、
(2)プレート負荷抵抗・・50kΩ
この2つの並列合成値なので計算は簡単で、8.3kΩです。SQ38FDでは、
(1)12AX7のrp・・おおよそ70kΩ、
(2)プレート負荷抵抗・・150kΩ
なのですが、p-g帰還がかかっているために、並列合成値は47.7kΩですが実際の値はもっとちいさくなります。正確な計算ではありませんが、負帰還がかかった
アンプの出力インピーダンスは、後段のインピーダンスが十分大きな値であるという場合に限って、ここで求めた47.7kΩを帰還量で割ることで近似的に求めるこ
とができます。フラットアンプの帰還量は、3.1倍〜5.9倍の間で変動しますが、47.7kΩ÷(3.1倍〜5.9倍)=15.4kΩ〜8.1kΩと求まります。(ちゃんと計算したら、11.6k
Ω〜5.8kΩとなりました・・正確な計算法はいずれまた。)
いやいや、面倒な計算におつきあいいただいて、どうもお疲れ様でした。しかし、計算問題の山場はまだまだこれからです。頑張ってお付き合いください。
トーン・コントロールアンプ
ある期間、LUX社のアンプには真空管、トランジスタを問わず同じ方式のLUXオリジナル(だと思う)のトーン・コントロール回路が採用されていました。世間で
はこれをLUX式と呼び、シンプルな構造ゆえに多くの自作アンプで採用されてきました。もちろん、SQ38FDでもLUX式トーン・コントロール回路が採用されて
います。
回路の概要
左図は、LUX型トーン・コントロール
の基本回路です。1段増幅回路のプレー
トからグリッドに負帰還がかかってお
り(p-g帰還)、この負帰還回路に周波数
選択性を持たせることで、周波数特性
をコントロールしようというもので
す。
Treble用は、250kΩB型のボリュームを
使い、周波数はコンデンサCtの値で決
定されます。Bass用は、1MΩB型ボ
リュームを使い、周波数はコンデン
サCbの値で決定されます。
周波数の切換は、Ct、Cbの値を変更することで行い、トーン・ディフィートは、Treble側はCtを切り離すことで、Bass側はCbをショートすることで行います。
LUX型トーン・コントロールの原理
LUX型トーン・コントロールの原理を知るために、「非常に低い周波数」および「非常に高い周波数」の2つの場合について、回路図を書き換えて検証してみた
いと思います。
上の回路図を参照してください。「非常に低い周波数」の場合は、Treble用ボリュームは、どのポジションにあっても影響力を持たなくなります。つまり、Treble
用ボリュームをどの位置に回転させても、低い周波数においては影響力がありません。一方、Bass用ボリュームとその上下の100kΩの抵抗によって、p-g帰還回路
が構成されています。ボリュームの位置によって、p-g帰還の帰還抵抗は以下のように変化します。
●Bassボリュームが上端のとき・・・100kΩ:1.1MΩ
●Bassボリュームが中央のとき・・・600kΩ:600kΩ
●Bassボリュームが下端のとき・・・1.1MΩ:100kΩ
今度は「非常に高い周波数」の場合です。Bass用ボリュームの両端がショートされてしなうので、どのポジションにあっても影響力を持たなくなります。つま
り、Bass用ボリュームをどの位置に回転させても、高い周波数においては影響力がありません。一方、Treble用ボリュームは単体でp-g帰還回路が構成されていま
す。
●Trebleボリュームが上端のとき・・・0Ω:71kΩ(250kΩと100kΩの並列)
●Trebleボリュームが中央のとき・・・56kΩ(125kΩと100kΩの並列):56kΩ(同左)
●Trebleボリュームが下端のとき・・・71kΩ(250kΩと100kΩの並列):0Ω
高低どちらの場合も、ボリュームが上端のときには、負帰還量が減少し、しかも2つの抵抗による減衰もなくなるので、トータルの利得は増加します。反対にボ
リュームが下端のときのときは、負帰還量が増加し、2つの抵抗による減衰が大きくなるので、トータルの利得は減少します。
ボリュームが中央のときは、高低どちらの場合も2つの抵抗の値が同じになります。p-g帰還回路で、2つの帰還抵抗の値が同じという場合は、回路そのものの利得
は約2倍になるのですが、2つの抵抗による減衰がちょうど0.5倍あるために、トータルの利得はちょうど1倍になります(仮に、12AX7の裸利得が50倍であるとして
計算すると0.96倍になります)。
入力インピーダンス
このトーンコントロール回路の入力インピーダンスについても検証しておきましょう。本来、トーンコントロール段の入力インピーダンスがわからないことに
は、前段のフラットアンプの正確な利得はわかりません。(本ページでは、フラットアンプの利得の計算では、トーンコントロール回路の入力インピーダンスを、
エイヤで100kΩと仮定して計算してきました。)
前記LUX型トーン・コントロールの原理で使った2つの回路図を流用します。まず、「非常に低い周波数」の場合の入力インピーダンスです。Bass用ボリュー
ム1MΩ側は、100kΩ+500kΩと100kΩ+500kΩとに分割されます。トーンコントロール回路の12AX7段の裸利得をざっと50倍と仮定します。p-g帰還回路の入力イ
ンピーダンスは、「入力インピーダンス = グリッド抵抗 + { 負帰還抵抗÷( 裸利得 + 1 ) }」でしたから、必要な値をいれて計算してみると、
600kΩ + { 600kΩ÷( 50 + 1 ) } = 612kΩ
になり、これと250kΩとが並列になりますから、
( 612kΩ×250kΩ )÷( 612kΩ+250kΩ ) = 177kΩ
これが「非常に低い周波数」における、Bass用ボリュームをセンターにした時のトーンコントロール回路の入力インピーダンスです。次は「非常に低い周波数」
の場合の入力インピーダンスです。Treble用ボリューム250kΩと2つの100kΩの抵抗とが並列の状態でp-g帰還を構成し(それぞれ55.6kΩになる)、Bass用ボリューム
は事実上ないものとみなせますので、
55.6kΩ + { 55.6kΩ÷( 50 + 1 ) } = 56.7kΩ
これが「非常に高い周波数」における、Treble用ボリュームをセンターにした時のトーンコントロール回路の入力インピーダンスです。本当は、もっとさまざま
な条件を想定して計算すべきかもしれませんが、このへんで次に進みましょう。
中域(たとえば1kHz)の問題
構造がシンプルでセンタータップ付きボ
リュームもいらないLUX型トーンコント
ロール回路にもちょっとした欠点があり
ます。たとえば、1kHzの場合について検
証してみましょう。
右図は、1kHzにおけるこのトーンコント
ロールの様子を表わしています。コンデ
ンサにかかわる値は概算値です。
問題となっているのは、bass側のコンデ
ンサ(10000pF)が、1kHzではゼロにはなら
ないことによって、上下が対称にならな
いことにあります。上下が対称というの
は、(X)-(d)間と(d)-(Y)間の抵抗値の比
が1:1であるということです。
ちょっと面倒な計算なのでその手順は省
略しますが、結果は、
(X)-(d)間:(d)-(Y)間 = 50.7:49.3
となりました。仮に、12AX7の裸利得が50倍であるとして計算すると、トーンコントロール回路の利得は0.935倍になります。トーンコントロールのボリュームが
中点のときの、高低域端の利得は0.96倍でしたから、1kHzでの利得の方がわずか(0.935÷0.96=0.974)に低くなる、ということになります。ちなみに、0.974という数
字をデシベルに置き換えると-0.22dBになります。
この程度の誤差は、トーンコントロールで使われている可変抵抗器の精度に比べれば微々たるものですから、気にするようなことではないかも知れません。あく
まで、LUX型トーンコントロールでは理論上このような特性を持っているのだ、ということだけ理解いただければ充分だと思います・・・そもそも、このページ
自体がメーカー製の銘アンプを肴に遊ぼうというゲームなのですから。もちろん、この誤差はトーン・ディフィート・スイッチによって解消されます。
謎の250pF
SQ38FとSQ38FDとを比較してみると、回路方式や回路定数などさまざまなところに違いを発見できます。トーンコントロール回路については、12AU7であったの
が12AX7に変更されたというところが最も大きな変更だと思いますが、もうひとつ、ちょっと不思議な変更がなされています。
それは、Bass用ボリュームのところに追加された2つのコンデンサ(250pF)です(上図)。そもそも、LUX型トーンコントロールは歴代このようなところにコンデンサ
は挿入されず、また、そういう必要もありません。それなのに、何故、SQ38FDになって突然ここにコンデンサが追加されることになったのでしょうか。
SQ38Fのときに12AU7だったのが、SQ38FDで12AX7に変更になったことと関係があるかもしれません。
それは、グリッド側の入力容量の変化です。真空管のグリッドとカソードとは近接していますから、この間にわずかながら容量が存在してちょうどコンデンサが
はいっているようになっており、カソードはコンデンサで接地されているために、あたかもグリッドとアースの間にコンデンサを挿入したのと同じ状態になりま
す。この容量のことをCg-kあるいはCinといい、12AU7で1.6〜1.8pF、12AX7で1.6pFあります。
もうひとつ、グリッドとプレートの間にも容量が存在し、これをCg-pといって、12AU7で1.5pF、12AX7で1.7pFあります。これだけならどうということはないの
ですが、Cg-pというのは曲者で、増幅回路に使用した場合はそれだけでは許してもらえないのです。それは、グリッドとプレートとでは位相が反対なので、Cg-p
が倍増してしまうのです。それも、裸利得が大きければ大きいほどその影響は大きく、グリッドとアースの間に「裸利得+1」倍のコンデンサを挿入したのとと同
じ状態になります。
このことを踏まえて、12AU7(SQ38F)の場合と12AX7(SQ38FD)の場合の入力容量を計算してみると、
●12AU7(SQ38F)の場合・・1.8pF + { 1.5pF×( 13倍+1 ) } = 22.8pF
●12AX7(SQ38FD)の場合・・1.6pF + { 1.7pF×( 50倍+1 ) } = 88.3pF
注:ここでは、配線上生じる容量は考えにいれていませんから、実際には、もっと大きな容量が存在します。
ところで、グリッドには1MΩのBass用ボリュームだけが接続されていますが、中点の時は、2つの500kΩの抵抗がほぼ並列になったもの(すなわち250kΩ)がグリッ
ド入力になります。ここに、250kΩの抵抗と、22.8pFまたは88.3pFのコンデンサによるハイカットフィルタが形成されます。
●12AU7(SQ38F)の場合・・159÷250kΩ÷22.8pF = 27.9kHz/-6dBoct
●12AX7(SQ38FD)の場合・・159÷250kΩ÷88.3pF =7.2kHz/-6dBoct
ごらんのとおりです。12AX7(SQ38FD)の場合は、なんと、7.2kHzで-3dBとなるハイカットフィルタになってしまっています。いくらp-g帰還を持った回路といえど
も・・・負帰還がかかっているために周波数特性は改善される・・・裸特性上生じているこのような状況を放置できなかったのではないか、というのが私の想像
です。なぜならば、Bass用ボリュームのところに250pF程度のコンデンサを2つ追加することで、この問題は簡単に解決できるからです。
理由として考えられるもうひとつの可能性ですが、上述したように、Bass用ボリュームが中点の時は、2つの500kΩの抵抗がほぼ並列になったもの(すなわち250k
Ω)がグリッド入力になります。つまり、12AX7のグリッドは250kΩの高いインピーダンスにさらされるわけで、外部からのノイズの影響を受けやすくなっていま
す。もし、Bass用ボリュームのところに250pF程度のコンデンサを2つ追加したならば、高域における回路インピーダンスをかなり下げることができるので、その
分ノイズを拾いにくくできます。
これまでに私の頭に思い浮かんだ理由はこの2つです。可能性として高そうなのは前者ではないか、と思っています。もし、ほんとの理由をご存知の方がいらっ
しゃっいましたら、恐縮ですがお教えくだされば幸いです。
トーンコントロールアンプの動作ポイント
さて、トーンコントロールアンプの動作ポイントです。カソード抵抗
は、2.2kΩと大きめ、プレート抵抗は100kΩです。グラフからは、
電源電圧=250Vのとき:
プレート電圧=175V〜185V
プレート電流=0.75mA〜0.65mA
そのときのバイアス電圧=-1.65V〜-1.43V
電源電圧=300Vのとき:
プレート電圧=212V〜222V
プレート電流=0.88mA〜0.78mA
そのときのバイアス電圧=-1.94V〜-1.72V
であることが推測されます。なお、バイアス電圧は、プレート電流×
カソード抵抗(1.5kΩ)で求めたので、グラフ上での読み取り数値とは
異なっています。
バイアスは、これまでみてきた他のどの増幅段よりも深めになってい
ます。見てのとおり、動作ポイントよりもバイアスが深い側の余裕が
あまりありません。
私としては、カソード抵抗を1.5kΩくらいにして、もう少しバイアス
の浅い動作にしたくなってきます・・・プレート電圧200V、プレー
ト電流1mA、バイアス-1.5Vあたりですね。もっとも、メインアンプ
に送り込まれる信号電圧は最大で1Vですから、実は、このような動
作であっても全然不都合はないのでした。
ご意見・ご質問はこちら→ teddy@highway.ne.jp
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